当研究室は2009年にできた、慶應義塾大学文学部心理学専攻の教員である川畑の研究室です。「心理学」を学術的基礎として、脳神経科学、芸術科学、美容科学、マーケティングリサーチを融合した感性科学の研究を行っています。
本研究室の射程
- 感性科学とは?
非常に大雑把に言えば,ヒトの「主観的なものごとの考え方」や「ものごとに対する価値や評価の付け方」に関する研究全般を感性科学ということができます。 - 本研究室の研究目標
本研究室では、学術的背景としては実験心理学や脳神経科学、認知科学などの基礎研究に置きながら,広く実証的な感性科学(aesthetic science)の構築を目指しています。 - 研究の範囲
感性科学の展開には,主観性や芸術認知,創造性の基礎研究(実験心理学,脳神経科学等)に止まることなく,美容科学や抗加齢医学,感性工学,情報科学,ユーザー・エクスペリエンス,感性教育,マーケティング,観光学,美術館博物館学,行動経済学,公共経済学など,現実社会の様々な問題や関連する諸分野への展開をターゲットとして,人間性の科学的基盤の解明と実学の精神に基づいた感性科学の展開が必要とされるでしょう。 - 研究の方法論
本研究室では,人間の「感性的認識」に関する様々な現象・機能・過程・機構について,心理学や脳神経科学,人間工学等の研究方法を用いて検討しています。「感性」という概念はとてもアバウトで抽象的なものです。哲学や美学,芸術学といった人文学の中での問題や現実社会における問題に関心を寄せ,詳細に理論的に分析しつつ,感覚や知覚、認知の感受性(sensitivityやsensibility)から美しさのような価値評価、創造性の問題まで幅広く実証的に研究するなかで,その輪郭が浮かび上がってきます。本研究室では、価値を主観的に体験する心と脳の意識的・無意識的働きについて、心理学実験,視線計測,脳機能研究や脳刺激法による心理学的、神経科学的な基礎研究を行っています。 - 海外との共同研究
本研究室では,イギリスやアメリカ,オーストリア,ドイツなど海外の研究者との共同研究を行っています。最近では,異文化間比較などについても積極的に研究しています。 - 社会との接続,産学共同研究
本研究室では,産学連携による実社会への還元や,産業への応用的研究にも取り組みつつあります。美容関係,観光関係,芸術関係,マルチメディア関係,諸メーカーとの共同研究を展開しています。
最近の主な研究テーマ
下記は,現在研究室で取り組んでいる,もしくは今後展開したいと考えている研究分野です。基本的には「美」に関連する研究を中心としています。川畑は,「美」という概念や経験は,非常にgeneralな機能だけでなく,それに加えて芸術的美や身体的美,自然的美,社会的美,あるいは心の美など,様々な領域に特定的な機能があると考えています。それらの交互作用や流動性が人間性の基盤となっているのではないかと考えます。現在は芸術的美と身体的美に関する研究が中心ですが,社会的美や心の美についても検討していきたいと考えています。
(1) 芸術的(造形的)美に関する研究:芸術や美に関する感性科学(実験美学、神経美学)
・芸術に感じる美的評価と判断の脳内基盤
・美学的枠組みにおける欲望の脳内基盤
・芸術作品への印象評価(SD法)
・脳刺激法による脳神経活動変容が美的評価に及ぼす影響
・芸術作品に感じる時間,芸術作品への評価が及ぼす時間認知への影響
・芸術鑑賞による不安やストレスへの関与
・芸術鑑賞における慣れ・飽き,評価の時間的変動
・芸術観賞における見方の枠組み・文脈の効果
・子どもの芸術表現や芸術への感性認知
・芸術鑑賞の教育効果,認知への影響
・プロダクトデザイン,パッケージデザインにおける美しさ
など
(2) 身体的美:顔魅力,対人印象に関する感性研究
・対人魅力の時間的注意への影響
・対人魅力の意識性・意識化過程とその時間特性
・熱愛が対人魅力に影響する認知過程
・対人魅力の影響因と自己認知,自己身体像認知
・美容科学,抗加齢医学における心理学
※性ホルモンや遺伝子多型についても関心を持っています
(3) 選択と選好をめぐる認知的因果性,社会的認知に関する感性研究
・選ぶことが好みを変える過程
・他者の選択が自己の選択に及ぼす影響
・認知バイアス
(4) 感性デザインの基礎としての知覚および多感覚情報処理に関する感性研究
●視覚的補完現象と関連する知覚現象
・視覚的ファントム現象,アモーダル補完,主観的輪郭,ネオンカラー錯視,透明視
・視覚的補完の発達過程
●物体認知と空間知覚
・物体認知の空間座標系
・物体の表面曲率知覚とその発達
・視空間と視方向
●多感覚情報処理
・視聴覚情報統合
・発話における運動感覚と聴覚情報の統合過程
・感性認知における多感覚情報統合
(5) 感性マーケティング研究
・観光分野における感性マーケティング
・質問紙調査,ウェブ実験における回答順序効果,回答バイアス
(6) 感性コンピューティング、感性ロボティクス
※今後展開したいと思っている分野です。
機械学習を用いた感性状態の予測について検討しつつあります。